通信3月号

2015年05月02日 04:27

諸悪の根源!格差  小西隆裕

                                    今、格差が問題になっている。安倍政治、アベノミクスを批判するとき、いの一番に挙げられるのも格差だ。ピケティ教授の資本主義への批判点も格差の拡大にある。実際、格差はそれ自体よくない。もちろん、その肯定面を積極的に強調する人もいるにはいるが、なんでも平等の平等主義との関係でのことだ。ところで、格差がなぜ良くないかと言えば、その根拠としてはいろいろある。普通一般にあるのは不平等だ。個人は一人一人皆平等だ。これは、ブルジョア革命の基本理念であり、それは今も生きている。 だが、格差が良くないのは、それに止まらない。社会という集団を見たとき、格差は往々にしてその分裂の根源になる。実際、貧富の差など、格差の拡大は、社会の一体感を損ない、分裂を招く。その上で、私が言いたいのは、格差が経済を破壊するということだ。格差が少しあった方が、競争心を高め、経済の発展にプラスだという見方があるのは事実だし、それが一定の妥当性を持っているのも事実だ。だが、弱肉強食むき出しの新自由主義で格差が拡大し甚だしくなったとき、それは経済を発展させるどころか、死に至らせる。日本や米国などの深刻な経済停滞は、そのことを教えてくれている。1%の超富裕層と99%の貧困層、東京への一極集中と地方の疲弊・崩壊、大儲けに沸く大企業と経営難にあえぐ中小企業、等々、極限にまで達してきている格差が何をもたらすか。それは、経済の極度の不均衡とそれによる循環の停滞だ。経済も生き物だ。生き物である経済の循環が止まったらどうなるか。それは死だ。一握りの超巨大独占資本へのカネの集中と絶対多数国民大衆の貧困化、それが膨大なカネ余り現象と広範なカネの欠乏を産み出し、経済循環の甚だしい停滞を産み出しているのは、周知の事実だ。資本主義が必然的に産み出し、新自由主義が加速する格差は、諸悪の根源として、安倍政権の倒壊を確固と約束している。

 

春よ来い

長く厳しい北国の冬もようやく終わりを告げる季節。宿所の眼前を流れるテドン江の厚い氷も溶け始めました。と、書き始めたら、氷を割って浚渫船がやってきました。この浚渫船、建設用の砂利採取のためのもの。3年ほど前から、平壌から上流20キロほどのこの辺りまでやってくるようになりました。在朝45年かつてなかったことですが、今、平壌は建設ラッシュ。よほど大量の砂利が必要なようです。とにかく春の訪れ、そろそろ農作業準備の季節。よど農園の管理人として作付けや共同作業日程など思案中。昨年はトマトが豊作で皆に喜ばれましたが、トマトは連作が効かないので、今年はどこに植えるか、などと。昔から需要の多いアスパラガスは、村の公開に伴う宿所の移動で近くに移植しましたが、ちゃんと芽を出してくれるか。この移植した場所には朝鮮の野生アスパラガスも生えています。日本では「キジ隠し」というらしいですが、紫色の細い芽が出て品種改良されたアスパラよりも味は良いです。同じく移動させた蕗も、そろそろ蕗の薹(フキノトウ)が芽生える頃。天ぷらが楽しみです。元来、うちの故郷(大分県別府市)では蕗の薹は食べたことがなかった(東北など北の地方の食習慣らしい)ので天ぷらしか知らないのですが、他の料理法があったら教えてもらいたいもの。フキは朝鮮では食用にしませんが、十数年前に野遊会(ピクニック)に行って、野原で見つけて移植した。全くの野生でちょっと苦みが強いですが、フキはフキ、煮つけて日本の味を楽しんでいます。日本の味としては訪朝して村を訪れるお客さんが持ってきてくれる日本の大根、ニンジン、野菜類も重宝しています。そして里芋。そろそろ植え付けをしなくちゃ。昨年も芋煮会をしましたが、今年はどうなることやら。帰国も近いのではという予感もしますし。ま、いつでも帰れるように準備しながら、日本の味をもたらしてくれた「野菜ちゃん」たちの面倒、最後まで見てやらないと。             「よど農園」管理人・魚本公博

さて、この間の私たちの状況をお伝えします。

 まず、2月、「拉致問題」に関して、朝鮮の特別委員会から調査の通達があり、「事情聴衆」が始まります。当事者としては早く始まり早く結果が出て欲しいという気持ちが先立つばかりです。ふたつ目は、これまで国賠裁判を担ってきた「よど号“拉致”逮捕状の撤回を求める国賠裁判を支える会」は、「よど号“ヨーロッパ拉致”逮捕状の撤回を求める会」に改組し再スタートします。逮捕状の撤回を克ち取るまでこれからも闘いを継続していくべきという支援者の方々の意見です。会の名称もより明確になりました。また、支援者の方々が取り組んでくれた私たちへのヒヤリング資料や国賠裁判などの記録から、「拉致逮捕状」が「国策捜査」の一環として行われた実態を本にして出版していくとなりました。国賠裁判が終結して今後の対応を模索していましたが、支援者からのこのような意見に大きな力を得ました。

つぎも、私たちにとってよかったことです。ネット上で動画を生中継するニコニコ生放送で、「孫崎亨チャンネル」という番組があります。この番組に朝鮮の日本人村から私たちの生の声が2時間近く流れ、孫崎さんと直接、お話しする機会を得ました。

 

 世界情勢論、や「イスラム国」について、ハイジャック事件、帰国のことなどの内容を話しました。もちろん、基本は男性たちとの討論でしたが、スムーズに実のある議論が活発に展開されました。こういう内容だからだと思いますが、番組の視聴数としては、とても多い数(22000以上)だったようです。罵詈雑言の対象である私たちであるだけに、当然、ヘイトな書き込みも多かったのも事実です。しかし、今後も、このような機会が少しずつでも設けられていけば、日本の方々の私たちへの理解も深まる方向に向かうだろうと思います。ちなみに、視聴後ユーザーの評価は、よかった39、7%、まあよかった17、3%、ふつう2、5%、あまりよくなかった5、1%、よくなかった35、4%でした。貴重な体験をした「生放送」でした。

よど号拉致でっちあげ逮捕状(結婚目的誘拐罪)」とは? 私たちは2013年4月に「よど号拉致でっち上げ逮捕状」撤回を求め東京都を被告として国家賠償請求訴訟を起こし、これまで地裁、高裁いずれも棄却判決を受け、昨年秋に最高裁に上告しました。しかし、この2月5日付けで上告も棄却されました。  これは不当な判決だと思います。私たちは現在、拉致容疑に関して朝鮮の特別調査委員会の調査を受けており、いずれその結果が出てきます。(今年の5月から7月までに出るといわれています)にもかかわらず最高裁が調査結果の発表を前にして早々と棄却決定の判決を下したことはどういうことでしょう? 私たちに対する逮捕状の正否を判断する上で決定的な重要性を持つ調査委員会の結果を待つというのが司法の常識ではないでしょうか。  そもそも私たちへの容疑について客観的証拠は一切ありません。また、ありえません。私たち女性の件での証拠となるものは「八尾偽証」とバルセロナでの動物園でのスナップ写真だけです。その写真は動物園で偶然に石岡さんとその友人に会い記念に撮っただけのものです。二人への容疑は「そこでマドリッドで会う約束をしたと思います」という「憶測証言」によって成り立っています。これは、手記「『拉致疑惑』と帰国」でも書きましたが動物園を一緒に回った石岡さんの友人に聞けばすべてわかることです。  証拠と言えるものが一切なく、しかも、事件から、19年後(魚本)、女性二人は26年後なって「結婚目的誘拐罪」容疑での逮捕状です。さらに、魚本さんへの逮捕状は、「八尾偽証」と、日朝首脳会談での朝鮮の謝罪の直後でした。女性二人の逮捕状は「拉致強硬(制裁一辺倒)策に転じた安倍政権下のものでした。そこには極めて大きな政治的企図があることは明白です。米国は朝鮮に対して勝手に「テロ支援国家指定」をしておいて解除してほしいなら「よど号関係者を国外追放せよ」と迫り、このために数々の「北朝鮮支配下のよど号テロ工作事件」をでっち上げました。ソウル五輪テロからはじまり、タイ偽ドル工作、そして極め付きが「日本人拉致工作」でした。前2件はすでに無罪が実証され、「拉致容疑」も、今、受けている朝鮮の特別調査委員会からの結果が出れば私たちに対する拉致容疑がまったく根拠のないことがいっそう明瞭にされる可能性も出る時期だったのです。  つぎに言いたいことは、結婚目的誘拐罪という逮捕状のことです。 結婚目的誘拐罪は親告罪とされているのですが、親告罪というのは、被害者の告訴状がなければ、検察官は起訴できないという罪のことです。だから、結婚目的誘拐罪は、被害者本人である石岡さんやその家族親族の告訴がないとそもそも成立しないということです。石岡さんたち自身の告訴状があるわけないのは当然のこと。親族の人たちが告訴状を出せるのは被害者本人が死亡した場合であり、家族は亡くなったとは思っていないのだから、告訴するわけありません。ならば、私たちに対する結婚目的誘拐罪は、一体誰が告訴したのか、です。この告訴状問題に関して、弁護士先生は「・・・かなり無理のある、これまでの通説とは反するような判断を下したということ・・・東京都の主張がかなりおかしい。通説に反すること。従来の一般的な学説に反するかなり特殊な解釈を取っていると言える。これについては彼ら(東京都)の方がチャレンジしなければいけない」と、言っています。これは、結婚目的誘拐罪という親告罪にもかかわらず、告訴権者でもないものを立てるという法律違反を犯してまでも発行されたのが「よど号拉致容疑逮捕状」だということです。この結婚目的誘拐罪を口実とした逮捕状が告訴権者でもないものが告訴するという違法すれすれの行為を犯してまでもなぜ発行されねばならなかったのか、このことをよく考えてほしいと思います。  この国賠を通じて、結婚目的誘拐罪という逮捕状が、違法承知で出された国策逮捕状であるというこの逮捕状の本質が明らかにできました。今後も「よど号でっち上げ逮捕状」に対する皆様の理解と世論喚起にも大いに役立つことになると思っています。国家賠償請求という道が閉だされた今、新たな対応を検討中ですが、「よど号拉致容疑逮捕状(結婚目的誘拐罪)」の不当性が暴かれ、私たちの無実がさらに明らかになる有利な状況に即して積極的に取り組んで行こうと思います。    森 順子

「憎悪の連鎖」VS「愛の連鎖」後藤健二さん殺害直後、彼のお母さんが訴えた「憎悪の連鎖になってはならない」! 片や安倍首相は叫んだ「罪を償わせる」! わが国の首相は、殺害された同胞の「母の訴え」に耳を貸さず、米国オバマに唱和する道を選んだ。「罪を償わせる」とは、米国の呼びかける対イスラム国、「反テロ戦争」有志連合と行動を共にする「憎悪の連鎖」につながることだ。元来、イスラム国と日本との間で憎悪が生まれる要素は何もなかった。なぜ、どこからこの憎悪がもたらされるようになったのか?イスラム国の源流でもあるアルカイダが米CIAの積極的関与のもとに生み出されたテロ組織という経緯を見れば、それは明らかだ。日本人拘束、殺害予告の衝撃的画像が日本と世界を驚かせた直後にオバマが大統領一般教書演説を行い、イスラム国に対する「反テロ戦争」有志連合を呼びかけた。その主な狙いが集団的自衛権行使容認に舵を切った安倍政権支配下の日本を「反テロ戦争」参戦国に大転換させることであることは、あまりにも明白なことだ。日本を「憎悪の連鎖」に引き込むことは、米オバマ政権、米覇権回復戦略の要求だ。

 

 「憎悪の連鎖」は、「罪を償わせる」有志連合のキーワードだ。世界中にテロへの恐怖を拡散させ、それを「憎悪の連鎖」、「反テロ戦争」有志連合に結実させる。そのリーダーは米国だ。衰退に向かうアメリカの軍事的覇権回復の切り札だ。アフガン、イラクなど主権国家相手の「反テロ戦争」は勝ちきれない、ならばと米国が作り上げたのが民族国家を超越した国境なき「国家」を名乗るテロ集団、イスラム国だ。 フランスでは「イスラム国と連携」とされた個人グループが「私はシャルリー」の憤激を煽る「言論の自由への挑戦」テロをやり、デンマークでも同様のテロが起こった。「日本人も標的にする」と宣告された。イスラム国という「憎悪菌」はいつでもどこでも「憎悪の連鎖」を増殖させていく。 この処方箋はただ一つ、最愛の息子を殺害されてもなお母が訴える「憎悪の連鎖になってはならない」こと、安倍政権の「反テロ戦争」有志連合加担を許さないことだ。「テロ非難決議」をボイコットした山本太郎議員のように各国で有志連合の鎖を断ち切ることだ。
 この間、「憎悪の連鎖」の一方で「愛の連鎖」についても考えさせられた。私事で申し訳ないが、私の中学三年の担任だった国語の先生から年賀状が来なくなったので息子を通じて故郷の友人に安否を問い合わせた。結果はやはり先生の訃報だった。この訃報を契機に故郷の滋賀草津の同窓会ネットが稼働を開始、恩師や同窓生の消息、故郷の便りが続々メールで届くようになった。その先生について言えば、「よど号拉致疑惑」があっても教え子を理解し信じ励まし続けてくださった文字通りの恩師だった。そして亡くなってなお故郷の友人たちとつながる「愛の連鎖」を紡いで下さったのだ。異郷の友人を思う同窓生の「愛の連鎖」は、恩師がそうであったようにささやかでも私たちの闘いを力強く支えてくれることだろう。朝鮮敵視の「憎悪の連鎖」に日本をつないだ「よど号問題」だが、やがて朝鮮の特別調査委員会の結果も出れば「拉致容疑」の無実もより明らかになる。今年、決戦の年、年初にこの「愛の同窓ネット」に接した私は「よど号」に関わる古い時代の「憎悪の連鎖」を「愛の連鎖」で断ち切っていきたいと強く思った。 「ありがとうございます塚原幸子先生」! と恩師に手を合わせご冥福を祈るばかりである。 若林盛亮